北畠氏 ~伊勢の公家大名①~

飛鳥時代の終わりごろよりはじまりました中央集権国家の実現への取り組みの中、国を統べるあり方を律令制へとうつしていく朝廷は、やがて諸国をその持てる力毎に、大国、上国、中国、下国の四つの段階に分けることをいたしました。平安時代中期、延喜式が策定されました折には、次に挙げまする十三の国が、最も上位である大国とされておりました。 
 
大和国 
河内国 
伊勢国 
武蔵国 
上総国 
下総国 
常陸国 
近江国 
上野国 
陸奥国 
越前国 
播磨国 
肥後国 
 
その内、上総、常陸、上野の三国は親王任国、すなわち親王が国司に任じられる様定められた国であり、大国の中でも格別のものでございました。尤も、親王が国司として下向して治めることはせぬ遥任でありましたことから、これら親王任国では、次官である介が事実上の長として統治にあたりました。 
時が下り、朝廷が任ずる国司の職が有名無実のものとなっても、上総守や上野守に任じられる武士はおらず、上総介や上野介に限られていのはこのためでございます。 
 
その大国のひとつ、伊勢国に南北朝時代より勢力を保ち戦国時代まで主であり続けたのが北畠氏でございます。 
村上源氏の流れを汲む北畠氏は、村上源氏宗家である久我家から鎌倉初期に分かれた中院家の家祖、中院通方の次子、雅家が洛北にある北畠(今の京都御苑の北辺り)に移り住み、北畠を称したことにはじまりまする。和漢の学をもって代々仕えた北畠氏は、二歳、三歳、あるいはさらに早く叙爵するなど厚く遇されておりましたが、天皇から見て私的に近しい臣下であったことによると考えられております。 
 
後嵯峨天皇以降、大覚寺統との関係が深かった北畠家でございますが、鎌倉時代終わり頃の当主、
北畠 親房は、文永九年(西暦1272年) 後嵯峨上皇が崩御、後継を定めぬままにただ次代の治天の君は鎌倉幕府の意向に添うように、との遺志だけが示されたことにはじまる両統迭立の混乱を経て、南北朝時代、後醍醐天皇(大覚寺統/第九十六代の治天の君にして、南朝初代の帝)の建武の新政を中心的な立場として支えるひとりとなり、そしてその血筋は伊勢北畠氏の基へと続いていくことになるのでございます。 

 

 
『のこす記憶.com  史(ふひと)の綴りもの』について 
 
人の行いというものは、長きに亘る時を経てもなお、どこか繰り返されていると思われることが多くござりまする。ゆえに歴史を知ることは、人のこれまでの歩みと共に、これからの歩みをも窺うこととなりましょうか。 
 
かつては『史』一文字が歴史を表す言葉でござりました。『史(ふひと)』とは我が国の古墳時代、とりわけ、武力による大王の専制支配を確立、中央集権化が進んだとされる五世紀後半、雄略天皇の頃より、ヤマト王権から『出来事を記す者』に与えられた官職のことの様で、いわば史官とでも呼ぶものでございましたでしょうか。様々な知識技能を持つ渡来系氏族の人々が主に任じられていた様でござります。やがて時は流れ、『史』に、整っているさま、明白に並び整えられているさまを表す『歴』という字が加えられ、出来事を整然と記し整えたものとして『歴史』という言葉が生まれた様でございます。『歴』の字は、収穫した稲穂を屋内に整え並べた姿形をかたどった象形と、立ち止まる脚の姿形をかたどった象形とが重ね合わさり成り立っているもので、並べ整えられた稲穂を立ち止まりながら数えていく様子を表している文字でござります。そこから『歴』は経過すること、時を経ていくことを意味する文字となりました。
尤も、中国で三国志注釈に表れる『歴史』という言葉が定着するのは、はるか後の明の時代の様で、そこからやがて日本の江戸時代にも『歴史』という言葉が使われるようになったといわれております。 
 
歴史への入口は人それぞれかと存じます。この『のこす記憶.com 史(ふひと)の綴りもの』は、様々な時代の出来事を五月雨にご紹介できればと考えてのものでござりまする。読み手の方々に長い歴史への入口となる何かを見つけていただければ、筆者の喜びといたすところでございます。 
 
<筆者紹介>  
伊藤 章彦。昭和の出生率が高い年、東京生まれ東京育ち。法を学び、海を越えて文化を学び、画像著作権、ライセンスに関わる事業に日本と世界とをつなぐ立場で長年携わっている。写真に対する審美眼でこだわりぬいたファッション愛の深さは、国境をこえてよく知られるところ。 
どういうわけだか自然と目が向いてしまうのは、何かしら表には出ずに覆われているものや、万人受けはしなさそうなもの。それらは大抵一癖あり、扱いにくさありなどの面があるものの、見方を変えれば奇なる魅力にあふれている。歴史の木戸口『史の綴りもの』は、歴史のそんな頁を開いていく場。
 
 
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