衣替え

昔からよく、暑さ寒さも彼岸まで、と言いますが、昨今の温暖化の影響や、時として過剰なまでの冷暖房完備は、日本人から四季を感じることを少しずつ奪っている様に思えてなりません。暖かさと肌寒さの入り混じる春には、春らしさを取り入れつつもまだ冷たさの残る風に、羽織れるものを持ち合わせた着こなしを、木の葉が色づき始める頃には、おだやかに暖かな昼間と、秋の日は釣瓶落としと言われるように、日が落ちて急に肌寒くなる夕方の両方を考えた着こなしを、それぞれ楽しんできたと思います。その中間のような季節があればこそ、そこに合わせた文化が生まれ、必要性だけにとらわれない心の豊かさもまた育まれてきたのではないでしょうか。

 

衣替えは、もちろん気候の変化に合わせて必要に迫られて、という側面もありますが、それだけではなく、移り変わる周りの自然、四季の移ろいに我が身も合わせていく楽しさをやはり忘れたくはないものです。前の年の服を出してきて、あぁ、と懐かしく思い返される風景や、忘れていた記憶、目で見たもの、肌で感じたもの、また食べたくなる季節の味、服と一緒に蘇ってくる五感の記憶ってないでしょうか。

 

クリーニング店の業界団体による最近の調査では、「長期間放置品」があると回答した業者は実に87.4%にのぼったそうです。しかも何年も放置されたままのケースも多いとか。中には故意ではなく仕方のない理由(本人死去、引き取り人不明など)もある様ですが、気が付いていても忙しいし、片付けの時間もないからついつい、などだとしたら、まるで自分の大切な記憶をどこかへ置き忘れてしまっている様。

 

季節を感じて、大切な記憶を積み重ねていく暮らしを、大切にしたいものだと思います。

 

 

終活支援サイト『のこす記憶.com』がお届けする『のこす記憶.comコラム』では、日常生活の何気ない一コマから、のこし伝えていきたい記憶を不定期更新で綴ってまいります。