『神社仏閣』と『寺社仏閣』 美しい日本語をのこすということ

前回に引き続いて言葉絡みですが、常々気になってしまう日本語の使い方について少し触れてみようかと思います。

 

神社と寺院の両方を含めての呼び方として、『神社仏閣』という言葉が使われますが、『寺社仏閣』という言い方をかなりの頻度で目にしたり、耳にしたりすることがあります。あれ、どっちが正しいの?どちらでも同じじゃない?と思われる方も少なくないのではないでしょうか。実際、書店で販売されている書籍のタイトルにも双方見られることがありますし、テレビ番組内でも双方混在していることがあるくらいですので、おそらく最も疑問符がついてしまう言葉のひとつかと思います。

 

このような場合には、折角、漢字一文字一文字に意味があるのですから、分解して考えてみると案外分かり易いことがあります。『神社仏閣』を改めて分解してみますと、神(かみ)の社(やしろ)と仏(ほとけ)の閣(たかどの)と分けて読むことができます。社は、祠(ほこら)の意でもあり、また閣(たかどの)は、いわゆる立派な御殿を指す言葉ですので、要するに両方とも建物の意味であることがわかります。つまり、神社仏閣とは、神様を祀っている建物と仏様を祀っている建物、と分解して読むことができ、最初の二文字で神道(神社)を、続く二文字で仏教(寺院)を表し、神社及び寺院を総称する際に使われている言葉、と導いて考えることができるかと思います。

 

では、『寺社仏閣』と言った場合にはどうなるのでしょうか。まず頭の二文字『寺社』ですが、歴史に詳しい方はお気付きのように、この二文字だけで既に神社と寺院の両方を表しています。これだけで長い話になってしまいますので、興味を持たれた方はこの機会にぜひいろいろと調べてみていただきたいと思いますが、外来語をカタカナで日本語化してしまう様に、外から入ってきたものを比較的柔軟に自分たちの文化の中に取り込んでいくことに長けていた日本人は、新しい知識、技術と共に大陸よりもたらされた仏教というものを、移り変わる時代の中で、時に統治側の政策的理由なども含む形で柔軟に取り入れてきました。例えば時代によりさらに細分化されていた時期もありますが、宗教行政機関として『寺社奉行』という、寺院と神社全てを管轄する機関が置かれていたことも、その様子を具体的に現している一つの例と言えるでしょうか。

 

そう考えた時に、『寺社仏閣』を分解して考えるとどうなりますでしょうか?寺社仏閣では、寺院、神社、寺院、寺院と言っているのと同じことになってしまいますので、合わせて寺院×3、神社×1のバランスが悪い言葉の組み合わせなのではないかな、と導いて考えることができるかと思います。

 

 

言葉は生き物とよく言われますし、ゆえに姿を少しずつ変えていくことのあるものであることには変わりありません。ただ、言葉には意味というものがあり、それは何故そうであるのか、という本質を示す大切なものです。確かこんな響きの言葉だったよなぁ、という印象だけで伝えるのではなく、言葉をその意味するところも含めて正しく次の世代にのこし伝えていくことができれば、と思います。

 

 

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